東京高等裁判所 昭和33年(ラ)66号 決定
期限付、条件付の権利はもとより、将来の請求権であつても、必ずしも仮処分命令を発する妨げとはならない。将来の請求権であつてもその内容や主体を特定し得る程度に要件が充足せられている限りその権利実現の可能性はあり、この可能性の性質は条件付権利の場合とその性質において差異なく、その実現の確定度にちがいがあるに止るから、仮処分による保全もまた肯定し得る。(仮差押に関し特定給付の履行を受けることができないことにより生ずべき将来の賠償請求権についても保全の必要あるときは仮差押をなし得るとの昭和三年六月二十日大審院第四民事部決定、民事判例集第七巻四六七頁参照なお破産法第二十三条参照)これを本件の場合につき考うるに、抗告人の主張によれば抗告人は被抗告人との間の工事下請負契約(内容は製作物供給契約及びその取付工事の請負)により代金は三回払とし第一回は契約成立のとき(この分は支払済)、第二回は中間払として昭和三十三年二月二十八日限り金百八十五万円、残額は工事完成の上引渡のときに支払う約の下に、抗告人の製作所有にかかる本件動産を被抗告人占有の建物内に搬入し、取付工事施工中で未だ工事完成による目的物の引渡をしていないけれども、被抗告人は既に昭和三十三年一月銀行の取引停止処分を受け、前記第二回の支払分についても約定の期日に支払をしない実状にあり、抗告人は被抗告人に対し右不履行を理由に本件請負契約を解除して被抗告人占有中の建物内にある本件動産の引渡を請求せんとするものであるが、本件仮処分前にかかる解除の通告をするときは、被抗告人において右動産が自己の事実上の占有下にあるを奇貨としこれを他に搬出処分し、抗告人の権利の実現を困難ならしめる恐れがあるから、右解除権行使に先だち本件仮処分の申請に及ぶと謂うにあつて、この点に関する疏明が十分でないとは心ずしも断じ得ない。そしてかかる将来行うことあるべき請求権と雖もその内容主体を特定し得る程度に要件が充足されているのであつて、基礎となる法律関係は殆んど成立し、ただ抗告人の解除権行使という一点にかかるに過ぎないのであるから、前叙説示に照らし被保全権利たるに適し、これが保全の心要性も十分に首肯し得る。
のみならず抗告人は、前示工事完成による引渡が未了で本件動産の所有権がなお抗告人に属することを前提として、所有権にもとずく引渡請求権をも被保全権利として主張し疏明しているのである。従つて仮りに本件請負契約(製作物供給契約と取付工事の請負)解除による引渡請求権は、右解除権の行使なき限り未だ成立しないから被保全権利たるに適せずとの見解に立つにしても、所有権にもとずく引渡請求権は否定できないし、請負契約の存在は相手方の抗弁として当然予想せられるところではあるが、相手方において先給付たる約旨にもとずく中間払の代金内金の支払をしない結果、工事完成による目的物件の所有権移転行為のなされていない以上、所有権にもとずく引渡請求権の行使を妨げるものでない。
これを要するに本件申請は、抗告人の十分な疏明と相当な保証を立てさせることにより、適当な方法を以てこれを許容すべき理由ありと考えられるに拘らず、たやすく抗告人の申請を却下した原決定は失当である。
(斎藤 坂本 小沢)